fc2ブログ

学びネット

主として公民館で活躍するサークル・団体の紹介です。 「グループ名」のクリックで、ブログの見られるものもあります。
RSS

「流れていますわね。」

 「流れていますわね。」
  黒い衣装に細く包まれた女性。 

 「ずうっと流れているんですね。」
  三十五年をつとめて退職間近の男性が答えます。取引先への挨拶回りを済ませた午后です。

 「ケチな水!」
 「え?」
 
 「玉川上水ですよ、これは。」
  念を押す口調で女が云った。
 「玉川上水です。」
 「上水は、下水ではありませんわ。」
 「昔は江戸の飲料水だったのでしょう。」
 「今流れているのは下水ですのよ。」
 「下水?」

 「使い終わって、余った、カスの水ですよ、これは。」
 
 「それでも、なにもないよりはましかもしれない。」

  彼は掌にすくい上げた水を鼻に近づけた。
 「お飲みになるの?」
 「止めておきますよ。」
  彼を見ると女は咽喉の奥で小さく笑った。

 「つまり、この水がお嫌いなんですね。」
  女は黙って首を横に振った。
 「それなら、可愛そうな水だと云いたいんだ。」
 「いいえ、悲しい水だと思っているだけ。」

  ・・・・

 後は作品をお楽しみに!!

野火止遊歩道

 男は煉瓦の路を東大和市駅方面に進み、子どもの手を引いた若い女性にその先を尋ねます。

 「なんだってえ」
 「野火止用水を探しているんだって」
  と歌うように母親が答え
 「どうしてえ」
 
  と子どもが聞き返し、彼も母親の返事が聞きたいと思いながら、歩き出し、「野火止用水清流の復活」の自然石に達します。
  
野火止放流口

  林のどこからか微かな水音が伝わってきた。
  用水の本流を作っているに違いない。

  果たして野火止用水に出会えたのかどうか、彼にはわからなかった。

  どこを見回しても黒いコートの人影がない・・・
 
  黒井千次 『たまらん坂』の中の「野火止用水」の一節です。

たまらん坂

  (2015.06.26.野火止用水記)

 野火止用水緑地と玉川上水緑地の合流地点2へ戻る

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す